幽霊屋敷のホテル

幽霊屋敷のホテルもう何年も前になりますが、母に誘われて、妹と一緒に3人で温泉旅行へ行った事があります。

温泉好きな母親が、旅行会社で、格安の宿泊パックを見つけてきたのです。往復の電車賃と宿泊の温泉の観光ホテルの宿泊がセットになっています。場所は、長野県軽井沢駅から、車で15分だそうで、送迎も無料でしてくれるのだそうです。車で15分とは、ずいぶん駅から離れているのだな、そういう印象でした。季節は春だったと思います。

が、旅行当日は、まだ冷たい雨が降っていました。さて、ホテルも名前しかわからず、どういう所かもわかりません。期待感と、不安感を感じながら、駅で送迎の車を待っていました。よく温泉街にあるような、数か所の宿を回るマイクロバスかな、と思っていたところ、迎えにきたのは、普通自動車です。ホテル名も入っていません。そして、お客は、私達3人だけなのです。どういうところなのだろうか…。

自動車は、あちこちのホテルや旅館が並ぶ道をひた走ります。そして、点在する建物が見当たらなくなってきた時、辺りには、一面にキャベツ畑があります。ああ、遠い場所のこじんまりとした温泉旅館なのだろう。そう思っていたところ、景色は急に開けて、運動場のような、まっさらの空き地の奥に、大きなホテルがそびえたっています。5階建て位か?ちょっとした団地のマンションを思い出します。そして、一角にはチャペルのついた建物、結婚式場まであるのです。こんな大きなホテルが本当に格安なの?私と妹は顔を見合わせました。

しかし、ホテルにチェックインしてから、その理由が判明しました。その大きなホテルには、私達以外に、お客はいないようなのです。しかも、ホテルの一部分では改装工事が行われていて、広いホテル内のショップもお土産屋さんもしまっています。そこは、冬の間には、大勢のスキーヤーが集まるホテルだったのです。ホテルの前にある運動場は、真冬には、ゲレンデになるのでしょう。しかし、季節外には、何も見るものがないのです。休業している、リフト乗り場があるだけで、観光する物はありません。

山のふもとなので、何かするにも、ホテルの外には車でしか出かけられないのです。
つまり、温泉に浸かるだけです。夕食時に、レストランへ行ったものの、広い部屋で、灯りのついているのは、私達のテーブルの周りだけ。暖房費ももったいないのか、エアコンは付いていなくて、テーブルの側に、ちょこんと置かれた石油ストーブから暖をとるのです。食事も美味しかったし、温泉もよかったけれど…。まるで、幽霊屋敷に迷い込んだみたいで、落ち着かなかった旅行です。

「ここさ、私達が申し込まなかたら、当分休みだったんじゃないかしら。」
たった一組の為に、営業させる事への申し訳なさを感じました。