| いま一息の国民の理解 |
遅くとも、あと2年半後には裁判員制度が始まる。裁判員制度に関する法律は2004年5月成立、公布された。施行日は法律の公布の日から5年以内と規定されている。
しかし、ようやく裁判員制度が始まることは知られてきたとはいえ、国民多数に理解され、支持されているかといえば、おぼつかないものがあり、法務大臣として気が気でないというのが本音だ。
昨年12月の内閣府の世論調査によれば、裁判員制度を「知っている」人は81%あったが、参加意識については、「参加する」21%、「参加したくないが、義務だから参加する」44%、「参加したくない」34%だった。同月の読売新聞の調査では「裁判員として裁判に参加したくない」は75%に上っている。
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| 裁判員制度を立案 |
裁判員制度に、私は少なからぬ因縁がある。02年に「04年通常国会に裁判員制度に関する法律案を提出する」との閣議決定が行われ、03年5月に自民党に司法制度調査会裁判員制度小委員会が設置され、私が小委員長を務めることになった。
これは難しい大変な仕事だった。裁判員制度の導入は、日本弁護士連合会を中心とする一部の先進的な法曹専門家の主張が司法制度改革審議会の意見書に盛り込まれ、それが閣議決定された経緯があるが、なお、導入自体に強い反対もある状況だったからだ。
小委員会では、導入の是非は議論しないこととし、具体的な制度設計をどうするかを議論することとした。それでも、導入に対する積極、消極の対立からくる議論が百出し、とりまとめに苦労した。
小委員会は22回に及んだが、私としては、日本に裁判員制度を導入するとすれば、これが最適だとする結論を出すことができたと思っている。
最後に残った問題は、実施時期だった。当時のアンケート調査などでは、裁判員には「なりたくない」というのが圧倒的多数だった。私は、どんな良い制度であるにせよ、せめて国民の半数以上が参加するという状況になるのを待って施行すべきであるという意見だった。
しかし、与野党の推進派は圧倒的に早期実施の意見であり、私の意見は容れられず、「公布後5年後に施行」ということで法案の成立を見たのである。
こういう経過だったので、法務大臣として円滑な施行の責任者となったのは巡り合わせというべきだろう。
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| なぜ裁判員になりたくないか |
法曹界挙げて国民の理解が進むよう、大変な努力をしているにもかかわらず、国民の参加意識がはかばかしく感じられないのはどうしてだろうか。
国民の中には、なぜ裁判員制度を導入する必要があるのか、という素朴な疑問が根強い。それもあって、国民の最大の不安は「法律なんかわからないのに、裁判に参加する自信がない」「刑罰を科すという判断の責任を持つ自信がない」ということにあり、後ろ向きの回答になるのであろう。
参加意識を高めるためには、裁判員制度の意義、内容を理解してもらう必要があることはいうまでもない。
そのため、導入の意義として、国民の司法参加がいかに大事なことであるかを説き、そのための裁判員制度の仕組みを詳しく説明することになるが、これを徹底することはかなり難しい。
まして、裁判員制度の意義などという大層なことを言われ、細部の制度の仕組みを説明されたのでは、かえって「それを自分でやるのか」という不安が増大し、「そんな面倒な役目につくのはいやだ」と思うのは、まあ普通のことといっていい。
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| そんな大変なことではない |
意義、内容を理解してもらうことが必要としても、責任が重い、むずかしいという不安を解消することが重要ではなかろうか。裁判員になることはそんなに大変なことでなく、心配するほどのことではないことをわかってもらう必要がある。
まず、法律がわからないから大変だ、と思う必要はない。法律のわからない人だから、裁判員になってもらうのであり、法律に詳しい人になってもらってはむしろ困るのだ。
次に、裁判員は重い役割ではあるが、責任が重いことをそんなに気にすることはない。
判決は裁判官3人と裁判員6人の多数決で決定すること。裁判官3人のうち、少なくとも1人が賛成しない限り、刑罰を科すことができない仕組みとなっていること。さらに、裁判員が参加するのは地方裁判所の裁判だけで、控訴されれば高等裁判所で裁判官だけで裁判をすること。
これらがわかれば、刑罰を決定するのは自分1人の責任であるかのように気にすることはないし、間違った意見を言ったらどうしよう、と気にすることもないのである。
これまで法曹3者(裁判官、検事、弁護士)はシンポジウム、模擬裁判の開催、ビデオ、パンフレット、ポスターの製作など、裁判員制度の意義、内容の理解を深めるための努力を尽くしてきた。
導入まで2年半となった今日、広報活動の方法も見直し、一般の国民の皆さんが持っている裁判員になることの具体的な不安をなくすこと、大変なことでないことをわかってもらうことに重点を置いて、円滑な施行の実現に全力を傾注したいと考えている。
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| (人材ビジネス 2007年3月1日/vol.248 連載第10回 永田町から より) |