政策方針

長かった法務大臣の11ヶ月
安全、安心の社会を目指す
 
職責を全うし納得できた
 8月27日、昨年の9月29日より務めてきた法務大臣を退任することとなった。11ヶ月ではあったがずいぶん長くやっていた気がする。信念に基づいて一生懸命、全力を尽くして取り組むことができ、それなりに納得した11ヶ月間だったからだと思う。どうにか職責を全うできたことに安堵している。この間に頂いたご指導、ご支援に感謝申し上げたい。
 それにしても、こんなにたくさんの問題があるとは想定外だった。不法滞在イラン人の国外退去問題、代理懐胎問題、死刑執行問題、警察検察の不当な取り調べによる免罪問題、外国人労働者の受け入れ問題、司法試験にかかわる不適切な指導問題などなど。
 また、信託法、戸籍法の改正、少年法の改正、犯罪被害者の公判参加のための法律、飲酒運転に対する重罰化のための法律、更正保護法など10本もの重要な法律を成立させることができた。
 残された課題も多い。野党の反対により、いわゆるテロ防止条約は未批准のままであるし、2年後に迫った裁判員制度の円滑な施行、ADR(裁判外紛争解決)、法テラスの充実、刑務所出所者などの就職・再犯防止、矯正施設の整備、不法滞在外国人の解消などのほか、取調べの可視化や保険・家族・国籍等民事に関する法制整備に関する議論も盛んである。
 裁判員制度に対する国民の理解がまだ十分とは言えないのは気がかりだ。広報強化のため20分のアニメを制作させた。ぜひご覧いただきたい。
 今後ともこれらの問題に取り組んでいきたいと考えているが、ここでは詳細の議論は省略し、法務大臣の11ヶ月を通じて感じたことを少し述べたい。
楽しかった官僚との議論
 一般に法務行政はなじみが薄い。「あれを取り締まれ、これを逮捕しろ」とか「あの判決を取り消せ」とかの要望もあったが、警察と検察と裁判の区別は理解してもらいたいものだ。
 法務省は検事、判事が中心で一般官庁とは少し違うところがある。やや行政感覚に欠けるところがあるが、とことん法律論をかわすことができるところがいい。
 職員とは時間をかけ、大いに議論をしたが、それは楽しいことだった。そのためか、「官僚より官僚らしい大臣」とか「官僚の言いなり」とかと評されもしたが、官僚の言いなりになったことはない。
 退任間際に若い職員(検事)から「検察庁で仕事をしてきて、政治家はろくな者でないと思ってきたが、大臣を見て政治家に対する認識が変わりました」と言われて大変うれしく思った。
 一方、法務委員会には弁護士出身の議員が多く、難解な法律用語を駆使した専門技術的な質問が繰り返され、国会答弁では心身とも疲れたというのが実感だ。
法律の条文・解釈と一般感覚
 そういう議論を通じて、法務省に限らず法曹三者(裁判官、検事、弁護士)とも法律の条文、理論を優先する議論が多く、一般感覚と少し異なるのではないかということもたびたび感じた。
 法律は社会が培ってきた自然なあり方、文化、倫理(「法」というべきもの)に沿ったものであるべきで、その解釈・運用も形式的な条文や論理的な理論のみにとらわれるべきではなかろう。
 そういう観点からすると、不自然でおかしなことが少なからずみられるのではないか。おかしい世の中になったという声をよく聞く。やりたい放題、言いたい放題の世相の感がある。しかし、それを指摘すると、「おかしいと思う方がおかしい」と理屈で言い負かされる。
 ほんの一部の事象を捉えて全体の評価の基準とされる。一度一つのことを認めてしまうと、際限なくそれに屈服し続けなければならない。この繰り返し、積み重ねがないであろうか。都合のいい理屈のみが横行することに気をつけなければならない。
人情なくして人権なし
 論理を組み立てれば、カラスは白いということができるという例えがあるが、印象的なことがあった。
 不法外国人の退去命令に対する取り消し訴訟が500件も提起されているが、昨年、時期を接して、事案は異なるが同種の事件について最高裁判決と地裁判決が出た。最高裁判決は処分が適法とするものであり、地裁判決は処分が違法とするものだった。
 これに対する不法外国人の支援団体の主張は、「最高裁判決に従うことなく、退去命令を実施するな」というものであり、地裁判決に対しては「判決に従い、控訴しないで退去命令を取り消せ」というものだった。
 これが、相当時期が違う時に起きたことであれば、おかしく思わなかったかもしれないが、たまたまではあるが、ほとんど同時期にこの二つの主張に接して驚いた。
 二つの主張の根拠は、人権を守れということだが、人権を守るためには最高裁判決には従うな、地裁判決に従え、ということになる。人権を尊重すべきことは当然だが、人権・人道と言えば何を言ってもいいというものではなかろう。「人情なくして人権なし」である。
 これからは自民党の雇用・生活調査会長と年金委員長を務めることになった。「自分さえよければよい」「儲かれば何をしてもよい」という社会を見直し、家族、地域を基盤として支え合う、人情豊かな優しい社会を再生するために、今後も政治家として精進していきたい。
(人材ビジネス 2007年10月1日/vol.255 最終回 続・永田町から より)